「風立ちぬ」とほぼ同時期に上映された、日本人なら誰もが知っている竹取物語をアニメにしている高畑勲さんの作品です。

全体のストーリーです:竹取の翁が竹やぶに入ると、光る竹があり、そこから女の子が出てきました。翁と媼が大事に育て、美しい女性に成長しました。都で立派な姫に育てようと、翁は都に引っ越します。かぐや姫の美しさはたちまち都の話題になり、5人の高官の男性が求婚に来ました。姫は5人の男性それぞれにこの世にはない宝物を持ってくるようにと、無理難題を課しました。その男性達は作り物の宝物を持ってくるなどの有り様でありました。姫は失望し、その後に帝には抱きつかれる始末。姫は月の住人であったことを思い出し、最後は月に帰ってしまうという話です。

まず翁ですが、かぐや姫を本当に我が子のように大事に大事に育てる様が描かれております。赤ん坊の姫のおしめをかえ、姫が誤って危ないものを触ろうとしたら取り上げ、姫の姿が見えないとあちこち探しに行ったりなどです。そして媼は翁から一歩下がってはいますが、しっかりと翁と共に姫を支えております。作品を見ていて、本当にいい両親だと思いました。

翁は本当に姫のためを思って、都に移り住み、家庭教師をつけて習い事をさせ、高官の男性や帝と結婚させようとします。しかし、姫にとってはそれは自分の望むところではありませんでした。姫は自然とともに生き、捨丸という男性と一緒になることを望んでおりました。ただ、その捨丸も、姫が一緒になりたいと思った時にはすでに妻も子供もいました。

自分に求婚する高官の男性や、帝に失望し、姫としてはほとほと現世が嫌になったようで、月に帰りたいと望んだところ、15夜に月の都からお迎えが来ることになりました。

その月の都からのお迎えの一行は、お釈迦様と菩薩様一行のような人達として描かれております。月の都とは極楽浄土のようなものなのでしょう。

我が子として可愛がっていた姫が月に連れて帰ってしまわないように、翁は兵隊を雇って抵抗しますが、抵抗は虚しくあっさりと雲の上に姫を連れていかれます。

そこで、翁と媼は「姫!」「お願いだから私達も連れていっておくれ!」と泣きながら姫と抱き合います。ある程度大きい子供を育てた経験のある大人であれば、このシーンではきっと大粒の涙を流されることでしょう。

月の都の一行でお釈迦様が出てくるので、きっと仏陀の教えがこの作品のテーマではないかと思います。

仏陀の教えは「一切皆苦」、この世に生きることは苦難に満ちている、というものです。

翁も姫も上記のように思い通りの人生ではなく、悩んでばかりですが、その悩んでばかりの人生に非常に価値があるというのがこの作品のテーマだと思います。姫は何の苦労もない極楽浄土の月の住人でありながら、苦難に満ちたこの世で生活することを希望し、一度は現世が嫌になり月に帰ることを決めてもなお、この世の生活の素晴らしさや価値を認めておりました。

僕はこの作品はスタジオ・ジブリ屈指の名作だと思います。

作品のタッチは水墨画のような絵になっていて、非常に柔らかい作品の雰囲気を作っていますし、日本最古の物語を映画に、これ程壮大なテーマを描いた作品は他には見当たらないと思います。

皆さんはどう思いますか?(^O^)

つばさクリニック